浮田歯科医院
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乳歯のむし歯治療と永久歯への影響~5歳の女の子の症例から~

2025年9月12日

夏休みに入り、子どもさんと一緒に来院されるご家族が増えてきました。

先日、5歳の女の子とお母さまが「前歯の虫歯が黒く穴があいているのを子どもが気にしているので治療してほしい」と来院されました。

鏡を見て「黒い歯いやだな」と感じ始めるのは、ちょうど幼稚園や保育園でのお友達との関わりが深まる時期で、見た目のことにも敏感になる年齢です。

お母さまによると、これまでは別の医院で定期的に口腔ケアを受けていたそうですが、そちらの医院では「もうすぐ生え変わるから治療はしなくても大丈夫」という方針で、処置は行われなかったとのことでした。

確かに乳歯は一生残る歯ではなく、いずれは永久歯に生え変わります。

しかし、だからといって「乳歯の虫歯は放置してもよい」という考え方には、私は賛成できません。

むしろ乳歯の時期にしっかり治療と予防を行い、お口の中の環境を整えておくことこそ、これから生えてくる永久歯を守るために欠かせないことだと考えています。

乳歯虫歯を放置するとどうなるか

乳歯は永久歯に比べてエナメル質や象牙質が薄く、虫歯の進行がとても速いのが特徴です。

初期の小さな穴でも放置するとあっという間に大きな虫歯になり、歯髄(神経)にまで達して痛みが出ることもあります。

さらに、乳歯の下には「これから生えてくる永久歯の芽(歯胚)」が控えています。乳歯の虫歯や炎症が悪化すると、その永久歯の形成や萌出にも影響を及ぼすことがあります。

また、前歯の虫歯は見た目の問題だけではありません。前歯は発音や食べ物のかみ切りに大切な役割を持っています。

虫歯で形が崩れると、発音に影響したり、食事で不便を感じたりすることがあります。

そして何より、幼少期に「虫歯があっても放置してよい」と学習してしまうと、将来の歯に対する意識やセルフケア習慣にも影響しかねません。

永久歯はどのように生えてくるか

子どもの歯は5〜6歳頃から永久歯に生え変わり始めます。

まず下の前歯(中切歯)が生え、続いて奥歯の「6歳臼歯(第一大臼歯)」が顔を出します。

特に6歳臼歯は「一番大事な歯」とも呼ばれます。かみ合わせの土台となる歯で、一生を通じて大きな役割を果たします。

しかし、生え始めの6歳臼歯はまだ歯ぐきの奥に半分埋まったような状態で磨きにくく、しかもエナメル質が未成熟で虫歯になりやすいのです。

実際、萌出したばかりの永久歯のエナメル質は結晶化が未完成で、70〜80%程度しか硬くなっていない状態です。

この時期に口の中が虫歯菌の酸で満たされていると、せっかくきれいに生えてきた永久歯があっという間に虫歯になってしまいます。

虫歯菌の「山火事」から永久歯を守る

私はよく「虫歯菌が出す酸で口の中が山火事のようになっている」と説明します。

山火事の中に新しい木が芽生えても、すぐに焼けてしまいますよね。

同じように、虫歯菌が多く繁殖している環境に新しい永久歯が生えてきても、すぐに虫歯になってしまうのです。

だからこそ、乳歯だからといって放置せずに、きちんと治療して炎症や感染源を取り除き、お口の中を健全な環境に整えておくことが重要です。

きれいな環境の中に永久歯を迎えることで、長期的にその歯を守ることができます。

フッ素の大切な役割

乳歯・永久歯にかかわらず、子どもの歯のケアで欠かせないのがフッ素です。フッ素にはいくつかの大切な働きがあります。

  1. エナメル質の再石灰化を促進する
    → 酸で溶けかけた部分を修復し、虫歯になりにくくします。
  2. 歯を硬くする
    → 生えたばかりで未成熟なエナメル質の結晶化を助け、早く丈夫に育てます。
  3. 虫歯菌の働きを抑える
    → 酸を作る力を弱め、口腔内の酸性化を防ぎます。

特に永久歯が生え始める時期には、フッ素を定期的に取り入れることでエナメル質が早く強くなり、虫歯に負けない歯に育ちます。

歯科医院でのフッ素塗布はもちろん、ご家庭でのフッ素入り歯磨き剤の使用も大変効果的です。

当院の方針

当院では「乳歯はどうせ抜けるから」と放置するのではなく、「乳歯のうちにしっかり治して、永久歯を迎える準備を整える」ことを方針としています。

今回の5歳の女の子のように、前歯に虫歯ができてしまった場合でも、可能な限り歯を保存し、きれいに修復することで見た目の回復、機能の回復、そして心理的な安心感を提供したいと考えています。

虫歯治療を通じて「自分の歯は大切にするものだ」と子ども自身が実感することも、将来にわたって非常に大きな意味があります。

保護者の方へのお願い

子どもの歯は、大人がしっかり見守り、ケアしてあげなければ健康を保てません。

乳歯だからといって油断せず、定期的な歯科検診を受け、虫歯や歯並びのチェックをしていきましょう。

そしてフッ素を取り入れた予防ケアを習慣にしていただければと思います。

「どうせ抜けるから」ではなく、「次に生えてくる永久歯を守るために」乳歯を大切にする。

その視点を持つことで、お子さんの一生の歯の健康が変わってきます。   

まとめ

今回の5歳の女の子の症例からもわかるように、乳歯の虫歯は決して軽視してはいけません。

乳歯をきちんと治療し、お口の中を清潔に保つことで、これから生えてくる永久歯を虫歯から守ることができます。

特に6歳臼歯の萌出期は最も虫歯リスクが高いため、フッ素を活用した予防が欠かせません。

当院では、お子さんとご家族に寄り添いながら、一人ひとりの成長に合わせたケアを行っています。どうか安心してご相談ください。

そして「乳歯だから治さなくていい」という誤解をなくし、お子さんの未来の歯を一緒に守っていきましょう。

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