浮田歯科医院
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高齢者の口腔と全身を守るために ~市民講座で学んだこと~

2025年10月30日

2025年9月28日、香川県歯科医師会が主催する市民講座に参加しました。

講師は、長年大学で研究と臨床に取り組まれてきた 柿木保明先生。

演題は「高齢者の歯科口腔疾患における病態と自然医学」でした。

市民講座の後には歯科医師を対象とした研修も行われ、舌診や歯科領域での漢方薬の具体的な応用について学びました。

今回は、その学びをブログ記事としてまとめてみたいと思います。 

舌診(舌は体を映す鏡)

漢方では、舌の状態を診ることを「舌診(ぜっしん)」と呼びます。舌の色や形、苔の厚みは、体の水分代謝や血流、消化機能の状態を映し出すと考えられています。

歯科医師は日常的に舌を観察しますが、単に口の一部としてではなく「全身の鏡」として捉える視点を持つと、患者さんの体調変化に早く気づけることがあります。 

薬と口腔乾燥・誤嚥の関係

高齢になると服薬数が増え、睡眠剤や抗不安薬を内服している方も少なくありません。

しかし、これらの薬には 神経伝達を抑える作用 があり、眠りを「深める」のではなく「意識を鈍らせる」効果が中心です。

その結果、唾液の分泌が減り「ドライマウス(口腔乾燥)」になる。味覚が低下する

嚥下反射が弱くなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まるといった問題が生じます。

口が渇くだけの問題ではなく、全身の健康や命に関わる深刻な影響があるのです。

漢方薬が脳浮腫を改善した症例

講師の柿木先生は2013年にくも膜下出血を発症されました。

緊急手術(開頭による脳動脈瘤クリッピング術)を受けられ、死亡率70%といわれる中で奇跡的に助かりました。

驚くべきことに、手術翌日から胃瘻を通して「五苓散」と「桂枝加朮附湯」を投与し、脳の浮腫を軽減させたそうです。

この判断が麻痺の予防につながり、その後も大学教授職を全うすることができたとのこと。

「自分や家族が脳出血を起こしたら、この2つの漢方を必ず胃から投与してほしい」と家族に言っておこうと思いました。 

義歯調整は「浮腫」を考慮する

歯科臨床では、義歯(入れ歯)が合わないと来院される患者さんが多くいらっしゃいます。

その原因は、義歯の摩耗や顎の骨の吸収だけではありません。

高齢者では、口腔粘膜や顎周囲筋のむくみ(浮腫)

上顎洞粘膜の腫れによる歯の挺出といった変化が関わることがあります。

そのため、義歯調整では「浮腫」という視点を持つことが大切です。 

顎関節症や食いしばりに効く漢方

現代社会では、ストレスによる顎関節症や歯ぎしり・食いしばりが増えています。

こうした症状に役立つとされる漢方薬として、

18番 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)16番 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

が紹介されました。歯科治療と並行して体質改善を図ることで、症状の改善が期待できるとのことです。 

ドライマウスと味覚障害への漢方

口腔乾燥によるドライマウスは、味覚障害や食欲低下につながります。

特に高齢者にとっては、生活の質を大きく左右する重要な問題です。

このような症状に有効とされるのが、11番 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)です。

体のバランスを整えることで、分泌機能を改善し、口腔の快適さを取り戻す手助けとなります。

睡眠の「黄金の90分」

もうひとつ心に残ったのは「睡眠の質」についてです。入眠後の最初の90分が最も深い眠りで、この間に副交感神経が優位になり、自律神経が整います。

さらに成長ホルモンが約80%分泌され、脳や体の修復が進みます。ところが睡眠剤を使うと、この大切な90分のリズムが乱れ、体の修復が行われないのだそうです。

「眠っているようで眠っていない」状態になり、かえって疲労感や浮腫が残ってしまうのです。

まとめ

今回の市民講座と研修から得た学びは次の通りです。

舌診で全身状態を読み取ることができる

歯科医療は単に歯や口腔を診るだけでなく、薬・生活習慣・全身の状態と深く結びついています。

今回の講演は、日々の臨床に新しい視点を与えてくれるものでした。

今後も歯科医師として、自然医学や漢方の知見を取り入れながら、患者さんに寄り添った診療を行っていきたいと思います。

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