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2026年10月29日
こんにちは。浮田歯科医院です。
日々の診療の中で、歯周病の管理を続ける大切さと、それを患者さんに伝える難しさを感じることがあります。今回は、ある患者さんとのやり取りをきっかけに、歯ぐきからの出血と全身の健康、そして私たちが歯周病治療に込めている思いについてお話しします。患者さんのプライバシーに配慮し、受診時期や経過の詳細は省略しています。
しばらくメンテナンスが中断していた患者さんが、かぶせものの脱離をきっかけに来院されました。お話を伺うと、通院されていなかった間に、大動脈解離で入院されたとのことでした。
お口を調べると、歯周病が進行し、歯周検査で出血する場所が多く認められました。しかし、ご本人には歯ぐきの状態が悪くなっているという自覚は、あまりありませんでした。
かぶせものの脱離と違い、歯周病は痛みが少ないまま進むことがあります。困っていなければ管理の必要性を実感しにくいことも、踏まえて説明する大切さを感じました。
歯周病の検査では、歯周ポケットの深さだけでなく、検査時に出血するかどうかも確認します。この出血をBOP(Bleeding on Probing)と呼びます。専用の器具で歯と歯ぐきの境目を優しく調べたときの出血で、歯ぐきの炎症を評価する指標の一つです。
例えばBOPが40%とは、調べた部位のうち、約4割で出血が認められたという意味です。自分では気づきにくい歯ぐきの炎症を、数字で確かめることができます。
歯周病の管理では、出血する部位をできるだけ減らし、炎症の少ない状態を目指します。歯周ポケットの深さ、歯を支える骨の状態、歯の揺れ、喫煙や全身状態なども合わせて評価し、検査結果を比較しながら改善を確認します。
この患者さんには、歯周病の炎症を改善し、継続して管理していく必要性をお伝えしました。しかし、その後も歯周病管理の予約につながらないことがあり、かぶせものの治療を目的に来院されました。
目の前の困りごとを先に解決したいのは自然なことです。同時に、歯を支える歯ぐきや骨の状態が安定していなければ、治した歯を長く保つことは難しくなります。
必要な治療の優先順位は、お口と全身の状態によって異なります。「歯ぐきは痛くないから、後でよい」と考えず、かぶせものの治療と歯周病の管理を、両方の視点から考えていただきたいと思います。
歯周病は、歯の周囲の組織に炎症を起こす病気です。炎症が続く歯周ポケットの内側では、上皮のバリアが傷つき、そこからお口の細菌が血液中に入り込むことがあります。歯周病に伴う慢性的な炎症が全身に影響する可能性も研究されています。
歯周病菌の一つであるPg菌は、血管の内側を覆う細胞に付着し、細胞内に侵入する性質が実験で確認されています。また、心筋梗塞や脳梗塞の患者さんから回収した血栓から、口腔細菌や歯周病関連細菌のDNAが検出された研究もあります。
歯周病と、動脈硬化に関連する心筋梗塞や脳梗塞などとの間には、関連が報告されています。ただし、血管の病気には、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症、不整脈など、さまざまな要因が関わります。歯周病だけを原因と考えることはできません。
一方、歯周治療によって心筋梗塞や脳梗塞の発症・再発をどこまで減らせるかは、さらに研究が必要です。医科での治療を続けながら、お口の炎症も放置せず管理していくことが大切です。
私たちは患者さんに、「検査で出血するのは、歯ぐきに炎症があるサインです。炎症のある歯ぐきからは、お口の細菌が血液中に入り込むことがあります。歯を長く保ち、全身の健康にも配慮するために、治療と毎日のケアで炎症を改善し、出血しにくい状態を目指しましょう」とお伝えしています。
大切なのは、単に見た目の出血を止めることではなく、プラークや歯石などに対処し、炎症そのものを改善することです。細菌が入り込みやすい状態を改善するという視点は、口腔ケアの重要な意義の一つです。BOPは血液中の細菌を直接調べる検査ではありませんが、歯ぐきの状態とケアの成果を患者さんと共有するために役立ちます。
お口の健康を整える意義は、手術前後の医療でも注目されています。心臓やがんなどの手術に際して、歯科で口腔内を評価し、清掃や必要な歯科治療を行う「周術期口腔管理」です。
手術前後は、口腔内の細菌が肺炎などの合併症に関わることがあります。周術期口腔管理では、細菌や汚れを減らし、感染源となる歯や、動揺している歯の確認なども行います。
日本のがん手術患者約51万人を対象とした研究では、術前の歯科口腔管理を受けた患者さんで、背景の違いを調整した後も、術後肺炎と術後30日以内の死亡が少ないという関連が報告されています。心臓手術でも、口腔管理による術後肺炎の低減を支持する報告があります。
長期的な心筋梗塞・脳梗塞の予防効果とは区別が必要ですが、周術期口腔管理には、医科の治療を支える大切な役割があります。
その後、改めて歯周病と全身の健康についてお話しした際、患者さんから「脳梗塞にも関係するのですか」と質問がありました。そして、最近、脳梗塞で入院していたことを教えてくださいました。
その出来事を聞き、私たちも驚きました。この方の脳梗塞や以前の血管の病気を、歯周病が原因だったと判断することはできません。それでも、全身の病気の治療とともに、歯ぐきの炎症にも継続して対応する必要性を改めて感じました。
一方、患者さんは「これからは、きちんとお口のケアに取り組みたい」と話してくださいました。私たちが以前からお伝えしていた内容が、ご自身の健康と結びついた瞬間だったのかもしれません。
説明したことが、その場ですべて伝わるとは限りません。大きな病気の治療や生活の変化の中で、歯科への通院まで気持ちが向かないこともあるでしょう。だからこそ、私たちは伝えた回数だけで満足せず、患者さんの受け止め方や疑問を確かめながら、繰り返しお話しする必要があると感じました。
歯周病の治療後に行う継続的な管理は、単に歯の表面をきれいにするためのものではありません。歯周検査で炎症や歯周ポケットの変化を確認し、必要な清掃や処置を行い、ご家庭での歯みがき、歯間ブラシ、デンタルフロスの使い方も見直します。
通院間隔や処置は、お口と全身の状態に合わせて決めます。出血が続く場合は、歯石や深い歯周ポケットなど、炎症が残る理由も確認します。
入院や手術、新しいお薬の処方があった場合は、歯科にもお知らせください。特に脳梗塞などの治療後は、主治医の方針や体調を確認し、必要に応じて医科と連携しながら、安全に歯科治療を進めます。血液を固まりにくくするお薬などを、自己判断で中止しないようにしてください。
今回の経験を通して、スタッフにも改めて伝えたいと思いました。歯周検査を行い、小さな変化に気づき、患者さんに声をかけ、毎日のケアを支える仕事には、大きな意味があります。
すぐに結果が見えなかったり、必要性が伝わらなかったりすることもあります。それでも、患者さんが自分の健康に目を向けるきっかけをつくり、行動を変えるまで支えることは、歯科衛生士の大切な役割です。
「私たちは、歯を守ることを通して、患者さんの健康と命を支える医療の一端を担っている」。その誇りを持って働いてほしいと思います。毎回の検査や清掃、患者さんとの対話は、その大切な仕事の積み重ねです。
浮田歯科医院では、これからも、お口だけでなく全身の健康に目を向けた診療を大切にしていきます。メンテナンスが中断している方も、どうぞ遠慮なくご相談ください。今のお口の状態を知るところから、無理なく続けられるケアを一緒に考えていきましょう。
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