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2025年8月29日
現在、私は歯周病専門医の資格更新のための手続きを進めており、その一環として秋の日本歯周病学会での「ポスター発表」の準備を行っています。今回の発表テーマは、
『広汎型重度慢性歯周炎患者に対するFGGおよび歯周組織再生療法とインプラント療法を含めた包括的治療の25年経過』
という長いタイトルですが、その中には、歯科医師としての私の25年間の臨床の歩みと、患者さんとの信頼関係、そしてチーム医療の積み重ねがぎゅっと詰まっています。
この症例の患者さんは、25年前に初診で来院された方です。若くしてすでに広汎型重度慢性歯周炎を患っておられ、当時の歯周病学のスタンダードから見ても、かなり難易度の高いケースでした。初診時には歯肉の腫脹、出血、動揺歯も多く、「できるだけ自分の歯を残したい」という患者さんの強い希望を受けて、包括的な歯周治療の計画を立てることとなりました。
まずは炎症のコントロールから始まり、適切なブラッシング指導や生活習慣の改善支援など、基礎的な歯周基本治療を徹底しました。その後、遊離歯肉移植術(FGG)や歯周組織再生療法を必要に応じて行い、部分的にはインプラントを併用しながら、全顎的に治療を行っていきました。当時は再生療法がまだ現在ほど一般的でなかった時代でもあり、患者さんにも私たち医療者側にも根気と覚悟が求められる長期戦だったと思います。
このポスターを作成するにあたり、改めて25年前のカルテを開いて、当時の歯周検査の記録を見返しました。そこには、詳細なポケットチャート、出血指数、動揺度、歯肉形態の記録がきちんと残されており、当時の私たちの診療がいかに真摯であったかを思い返す機会にもなりました。
とりわけ感動したのは、当時の歯科衛生士さんの記録でした。一つ一つのメンテナンス記録が非常に丁寧で、歯周ポケットの改善状況や患者さんのホームケアの習慣、気になる部位への個別対応などが事細かに記されており、彼女たちの存在がこの症例の長期的成功に大きく貢献していたことが改めて実感されました。
また、業務記録には、担当歯科衛生士と私がどのように連携してアプローチしたか、時には悩み、時には話し合い、共に治療方針を修正してきた過程も記されており、まさにチーム医療の結晶とも言える記録でした。
25年という長い時間を経て、患者さんは現在も定期的に来院されており、重度の歯周炎であったにも関わらず多くの歯をしっかりと維持されています。インプラントも20年以上良好に機能しており、咬合も安定しています。
私たち医療者が「長期的な口腔の健康」を目指して行う治療が、こうして四半世紀というスパンで成果を結んでいることに、心からのやりがいと喜びを感じています。もちろん、これは私一人の力では成し得なかったことです。地道に記録を残し、日々のメンテナンスを担当してくれた歯科衛生士さん、そして何よりも信頼をもって私たちの指導に応えてくださった患者さんに、心から感謝しています。
ポスター発表というと、どこか学術的で堅苦しい印象を持たれるかもしれませんが、私にとって今回の発表は、「患者さんと共に歩んだ25年の証明」であり、「チーム医療の軌跡の記録」でもあります。
この経験を通じて、あらためて思うのは、記録の力と継続の価値です。記録がなければ、たとえ結果が良くても、その過程を正確に振り返ることはできません。記録を通じて、私たちがどんな判断をし、どんな工夫をし、どのように改善してきたかを検証できるのです。そして継続的に関わっていくことによって、患者さんの人生に寄り添い、真の健康を支えることができるのだと実感しました。
今回のポスター発表が、今後の若い歯科医師や歯科衛生士の皆さんにとっても、「長期症例の力」「記録の意義」「チーム医療の価値」を伝えるきっかけになればと願っています。 そして、これからも一人でも多くの患者さんに「25年経っても健やかに噛める未来」を提供できるよう、精進していきたいと思います。